経済安全保障強化 新法案が閣議決定 重要製品の安定供給を支援
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220225/k10013501851000.html?utm_int=news-politics_contents_list-items_028
2022年2月25日のNHKニュースより転載
政府は、国民生活に欠かせない重要な製品が安定的に供給されるよう支援を行うなど、経済安全保障の強化を図る新たな法案を25日の閣議で決定しました。今の国会での成立を図りたい考えです。
政府は25日、経済安全保障の強化を図る新たな法案を持ち回りの閣議で決定しました。
法案では、半導体や医薬品など国民生活に欠かせない重要な製品が安定的に供給されるよう、国に企業の調達先などを調査する権限を与えるほか、サイバー攻撃を防ぐため、電力や通信といったインフラを担う大企業が、重要な機器を導入する際に、国が事前審査を行えるようにします。
さらに、軍事に関わる技術の中から、国民の安全を損なうおそれのあるものについて、特許出願を非公開にできる制度などが盛り込まれています。また、制度の実効性を保つため、罰則も設けています。
アメリカと中国の間でハイテク技術の覇権争いが激化するなか、政府としては、欧米と足並みをそろえる形で先端技術の流出防止や、国内での重要物資の確保といった経済安全保障を強化するねらいがあります。
一方で、経済界などからは、ビジネスへの行き過ぎた規制とならないか懸念の声も出ていて、政府は自由な経済活動とのバランスをどうとるのか、運用の在り方が問われることになりそうです。
経済安全保障 法案の4つの柱
今回の法案は、日本では初めてとなる経済安全保障に関する体系的な法案で、4つの柱で構成されています。
供給網の強化
国民生活に欠かせない重要な製品を確保する仕組みです。
半導体や医薬品、レアアースやニッケルといった重要な鉱物、それに蓄電池の原材料といった製品が安定的に供給される体制になっているかどうかを国がチェックします。
国に企業の調達先などを調査する権限を与え、特定の国に調達を頼りすぎていないかなどを調べることにしています。
対象となる企業は、安定的な供給に向けた生産体制などの計画を国に提出し、認定を受けます。認定を受けた企業は、必要に応じて国から金融支援を受けられるようにします。
インフラの安全確保
重要インフラの安全性を確保するための対策です。
電力や通信、金融といった国民生活を支えるインフラを担う14業種の大企業を対象に、重要機器を導入する際には国が事前に審査を行います。サイバー攻撃を受けたり、情報を盗み取られたりしないための対策です。
システムに脆弱性がないかなどをチェックしたうえで、攻撃を受けるおそれが高いとみられた場合には、必要な措置をとるよう国が勧告や命令を出せるようになります。
特許の非公開化
軍事に関わる技術の中から、国民の安全を損なうおそれのあるものについて特許出願を非公開にできる制度です。
日本の今の制度では特許は出願すると、1年半後には原則公開されます。
現状では、例えば日本企業が出願した内容を海外の企業が利用して軍事に転用するリスクがあります。こうした事態を防ぐため、対象を軍事技術に絞り込み、出願内容を非公開にできるようにします。
一方、出願者は本来なら特許収入が得られるところを非公開にするので、不利益を被らないよう国が補償を行うとしています。
先端技術の研究開発
官民が一体となった先端技術の研究開発にも力を入れます。
優先して育成すべき重要な技術を絞ったうえで、研究開発のプロジェクトごとに官民が参加する協議会を設けます。
そして、協議会の参加機関どうしでは、過去の研究データなど必要な情報を共有することで技術の育成を促すことにしています。
また、制度の実効性を保つため、罰則も設けられています。
▽重要インフラの対象の事業者が重要機器を導入する際に適切な届け出を怠った場合や、
▽非公開の対象となる重要技術の発明で、関連する情報を漏らした場合には、いずれも2年以下の懲役か100万円以下の罰金とします。
悪質ソフトウエアの検出 1年で275万件余
今回の新たな法案では電力や通信など、インフラを担う大企業が重要な機器を導入する際、システムにぜい弱性がないかなど、国が事前に審査を行う制度が盛り込まれています。
背景には、こうした企業をねらったサイバー攻撃が増えている現状があります。
情報セキュリティー会社の「トレンドマイクロ」の調査によりますと、去年1年間に、国内で「マルウエア」と呼ばれる悪質なソフトウエアが検出された事例は、275万件余りに上り、増加傾向にあるということです。
おととしからの新型コロナウイルスの感染拡大で、自宅でのテレワークが増えたことにともない、セキュリティのレベルが下がることなどにつけいったサイバー攻撃も増えているといいます。
近年は企業を標的に、保存してあるデータを勝手に暗号化し、元に戻すための身代金を要求する「ランサムウエア」と呼ばれるコンピューターウイルスによる被害が増えています。
トレンドマイクロの岡本勝之セキュリティエバンジェリストは「組織や企業がサイバー攻撃を受けて業務が止まることになると、本来受けられるはずのサービスなどが止まってしまい、われわれの生活にも直接的な影響が起こるおそれがある。今回の法案の制度のように、導入前にシステムの脆弱性をなくしておくのは有効な対策になるが、その後も定期的にチェックを続ける体制づくりが必要となる」と話しています。
専門家 “政府と民間の間の協力関係が大事に”
法案が閣議決定したことについて、経済安全保障に詳しい東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授は「今、世界の貿易の考え方が大きな変わり目に来ている。これまでは自由貿易の世界で企業は自由に貿易をすることが原則だったが、本当に自由にやってしまうと安全保障上のリスクがすごく大きくなることが明らかになってきた。日本は、その中でも経済安全保障という概念を法案という1つのパッケージとしてまとめたことで、新しい時代のモデルを提供しうるものではないか」と述べています。
そのうえで、今後、法案が成立したあとの課題については「経済安全保障のさまざまな規制や罰則の対象になるのは企業だ。政府と企業が安全保障上の利益と、経済的な利益のバランスをどこでとっていくかが重要で、安全保障のためにやることと、自由にビジネスを行う部分をきちんと仕分けするとともに、政府と民間の間の協力関係をつくっていくことが大事になる」と指摘しています。
インフラ企業などが重要機器導入時には国が事前審査行う制度も
経済安全保障の強化を図る新たな法案では、電力や通信などインフラを担う大企業について重要な機器を導入する際には国が事前に審査を行うという新しい制度が盛り込まれました。
審査では、システムにぜい弱性がないかなどがあらかじめチェックされることになっています。
こうした事前審査が必要とされる背景には、サイバー攻撃を防ぐなど、セキュリティーを担保するという観点から、さまざまな重要な機器のシステムがどのようなソフトウエアで構成されているのかを把握しておくことの重要性が高まっていることがあります。
近年、企業などで導入されている機器のシステムは、さまざまな国や企業それに個人などによって開発された多数のソフトウエアで構成されていて、仮に特定のソフトウエアでぜい弱性が見つかった場合、事前にシステム構成を把握できていないと対応が遅れるおそれがあります。
去年末には世界中で広く利用されている「Log4j」と呼ばれるソフトウエアの機能に、深刻なぜい弱性が発覚し、多くの企業で使用の有無などを調べることに追われる事態となりました。
「Log4j」は「オープンソースソフトウエア=OSS」と呼ばれる無料で公開されたものでした。
「OSS」は世界中の優れた開発者がつくりあげたソフトウエアをうまく組み合わせることで単独で開発するよりもより優れたものをつくれるメリットがありますが、特定の企業から提供されているわけではないことから、ぜい弱性がみつかっても満足なサポートを受けることができないことがあります。
情報セキュリティーに詳しい大阪大学の猪俣敦夫教授は「現代社会の根幹をなすシステムは、数百、数千という数のソフトウエアで構成されていることが一般的で、もはや専門家でもそう簡単に内部がはっきりと見えない状況になっている。それらの全てが信頼できるものかという検証も難しくなってきている。きちんとシステムを構成する部品である、ソフトウェアの管理表をまとめておくことから始めて、システム構成の棚卸しを進めることが重要だ」と話しています。
令和4年2月25日(金)持ち回り閣議案件
https://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/2022/kakugi-2022022502.html
経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案(決定)
(内閣官房)
第208回 通常国会
https://www.cas.go.jp/jp/houan/208.html
経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案 R4.2.25
概要(PDF/534KB)file:///C:/Users/press/AppData/Local/Temp/siryou1-2.pdf
要綱(PDF/246KB)ile:///C:/Users/press/AppData/Local/Temp/siryou2.pdf
法律案・理由(PDF/502KB)file:///C:/Users/press/AppData/Local/Temp/siryou3.pdf
新旧対照表(PDF/172KB)file:///C:/Users/press/AppData/Local/Temp/siryou4.pdf
参照条文(PDF/619KB)file:///C:/Users/press/AppData/Local/Temp/siryou5.pdf
経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案(経済安全保障推進法案)の概要
重要物資の安定的な供給の確保に関する制度の概要(経済安全保障推進法案 第2章)
基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する制度の概要(経済安全保障推進法案 第3章)
先端的な重要技術の開発支援に関する制度の概要(経済安全保障推進法案 第4章)
特許出願の非公開に関する制度の概要(経済安全保障推進法案 第5章)
政府は、国民生活に欠かせない重要な製品が安定的に供給されるよう支援を行うなど、経済安全保障の強化を図る新たな法案を25日の閣議で決定した。
政府は25日、経済安全保障の強化を図る新たな法案を持ち回りの閣議で決定した。
正式名称「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案」(経済安全保障推進法案)。
法案の趣旨
国際情勢の複雑化、社会経済構造の変化等に伴い、安全保障を確保するためには、経済活動に関して行われる国家及び国民の安全を害する行為を未然に防止する重要性が増大していることに鑑み、安全保障の確保に関する経済施策を総合的かつ効果的に推進するため、基本方針を策定するとともに、安全保障の確保に関する経済施策として、所要の制度を創設する。
関連
「経済安全保障」 政府 4つの柱可能にする新法案 国会提出へ
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/485119544.html
ラベル:経済安全保障推進法案
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