2020年12月04日

[種苗法改正案] 自家増殖制限と種の海外依存 公共的支援枠組みを [12月1日、東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏]

[種苗法改正案] 自家増殖制限と種の海外依存 公共的支援枠組みを [12月1日、東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏]

自家増殖制限と種の海外依存 公共的支援枠組みを 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏
https://www.agrinews.co.jp/p52552.html


2020年12月1日の日本農業新聞より転載

 種苗の自家増殖を制限する種苗法改定の目的は種苗の海外流出の防止とされてきたが、その説明は破綻した。農家の自家増殖が海外流出につながった事例は確認されておらず、「海外流出の防止のために自家増殖制限が必要」とは言えない。

 むしろ、「種子法廃止→農業競争力強化支援法8条4項→種苗法改定」で、米・麦・大豆の公共の種事業をやめさせ、その知見を海外も含む民間企業へ譲渡せよと要請し、次に自家増殖を制限したら、企業に渡った種を買わざるを得ない状況をつくる。つまり、自家増殖制限は種の海外依存を促進しかねない。

 種苗法改定の最大の目的は知財権の強化による企業利益の増大である。環太平洋連携協定(TPP)では製薬会社から莫大(ばくだい)な献金をもらった米国共和党議員が新薬のデータ保護期間を延長して薬価を高く維持しようとした。基本構造は同じである。

 また、農家の権利を制限して企業利益の増大につなげようとするのは、人の山を勝手に切ってバイオマス発電したもうけは企業のものにし、漁民から漁業権を取り上げて企業が洋上風力発電でもうける道具にするという農林漁業の一連の法律改定とも同根である。

 そして、議論が許諾料の水準にすり替えられた。問題は、公共の種が企業に移れば自家増殖を許諾してもらえず、毎年買わざるを得なくなることだ。

 また、登録品種は1割程度しかないから影響ないというデータの根拠も怪しいと判明した。かつ、在来種に新しい形質(ゲノム編集も)を加えて登録品種にしようとする誘因が高まるから、それが広がれば、在来種が駆逐されていき、多様性も安全性も失われ、種の価格も上がり、災害にも脆弱(ぜいじゃく)になる。

 ただし、農水省を責めるのは酷である。自らの意思と別次元からの指令で決まったことに苦しい理由付けと説明をさせられているのが農水省の担当部局である。畜安法改定、漁業法改定、森林の新法も同じで、良識ある官僚は断腸の思いだろう。

 安全保障の要の食料の、その源は種である。野菜の種は日本の種苗会社が主流とはいえ、種採りの9割は外国の圃場(ほじょう)だ。種までさかのぼると野菜の自給率は8割でなく8%しかない。新型コロナウイルス禍で海外からの種の供給にも不安が生じた。さらに、米・麦・大豆も含めて自家増殖が制限され、海外依存が進めば、種=食料確保への不安が高まる。

 何千年も皆で守り育ててきた種は地域の共有資源であり、それを「今だけ、自分だけ、金だけ」の企業が勝手に改良して登録してもうけるのは「ただ乗り」による利益の独り占めだ。地域の多様な種を守り、活用し、循環させ、食文化の維持と食料の安全保障につなげるために、ジーンバンク、参加型認証システム、有機給食などの種の保存・利用活動を支え、育種家・種採り農家・栽培農家・消費者が共に繁栄できる公共的支援の枠組みが求められている。


鈴木宣弘・東京大学教授・種苗法改正案.PNG



12月1日の日本農業新聞に鈴木宣弘東大大学院教授の種苗法改正に関するコラムが掲載されています。
種苗の自家増殖を制限する種苗法改定の目的は種苗の海外流出の防止とされてきたが、その説明は破綻した。
農家の自家増殖が海外流出につながった事例は確認されておらず、「海外流出の防止のために自家増殖制限が必要」とは言えない。
むしろ、「種子法廃止→農業競争力強化支援法8条4項→種苗法改定」で、米・麦・大豆の公共の種事業をやめさせ、その知見を海外も含む民間企業へ譲渡せよと要請し、次に自家増殖を制限したら、企業に渡った種を買わざるを得ない状況をつくる。
つまり、自家増殖制限は種の海外依存を促進しかねない。
種苗法改定の最大の目的は知財権の強化による企業利益の増大である。

[種苗法改正案] 12月2日、改正種苗法が参院本会議で成立 海外への不正持ち出し禁止 立憲民主党と共産党は反対 国民民主党は賛成
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/478801016.html

残念ながら、12月2日、改正種苗法が成立しました。
2021年4月に施行される見通しです。

[種苗法改正案] 12月1日、参院農林水産委員会で種苗法改正案を可決 立憲民主党と共産党は反対 国民民主党の舟山康江氏は賛成討論
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/478776417.html

12月1日の参院農林水産委員会を振り返る。
法案には附帯決議が付された。
法案と附帯決議に反対したのは、共産党の紙智子氏のみだった。
種苗法改正案に反対したのは、立憲民主党と共産党。
国民民主党の舟山康江氏は賛成討論を行った。
参院本会議でも、国民民主党は賛成に回った。

国民民主党はネオリベ野党である。
衆院選は国民民主党に入れません。

衆参で合わせても政府質疑は10時間20分。
参考人質疑は1時間45分です。
審議が尽くされたとは言えない。

種苗を海外に持ち出そうとする悪意を持った者が自家増殖が許諾制になったと言っても、申請するだろうか。
農家の自家増殖が海外流出の温床であるかのようなやり方はやめるべき。
農業競争力強化支援法の8条4項で、民間に知見を渡すようにされているので、この項目を削除せずに海外流出を防止するとは矛盾している。
また、農林水産省は種苗の海外への流出を防ぐには、それぞれの国で品種登録するしかないと答弁していた。
海外流出を防げない。
改正種苗法に反対します。




参考

[種苗法改正案] 12月2日、改正種苗法が参院本会議で成立 海外への不正持ち出し禁止 立憲民主党と共産党は反対 国民民主党は賛成
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/478801016.html

[種苗法改正案] 12月1日、参院農林水産委員会で種苗法改正案を可決 立憲民主党と共産党は反対 国民民主党の舟山康江氏は賛成討論
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/478776417.html

国会審議で見えた種苗法改定の真の狙い〜論点の再整理 [11月24日、鈴木宣弘東京大学教授]
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/478726017.html

[種苗法改正案] 11月26日、参院農林水産委員会で種苗法改正案が実質審議入り 午前、政府質疑 午後、参考人質疑⇒12月1日、質疑の後、採決
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/478723928.html

[種苗法の一部を改正する法律案] 11月24日、参院農林水産委員会で種苗法改正案の趣旨説明⇒11月26日、実質審議入り 午前、政府質疑 午後、参考人質疑
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/478650664.html

[種苗法の一部を改正する法律案] 11月24日の12時40分以降に種苗法改正案が参院農林水産委員会で趣旨説明を予定
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/478639116.html

[種苗法改正案] 11月19日、種苗法改正案が衆院本会議で賛成多数で可決 自公維の修正案で修正議決 立憲民主党と共産党は反対
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/478565765.html

[種苗法改正案] 11月16日、国民民主党の玉木雄一郎氏が「種苗法改正には基本的に賛成」とツイート⇒同日、毎日新聞が「国民民主党は賛成に回る方針」と伝えていた
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/478561791.html

[種苗法改正案] 11月17日、衆院農林水産委員会で賛成多数で可決 立憲民主党の修正案は否決 自公維の修正案で修正議決 共産党は両修正案にも反対
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/478531197.html

[種苗法の一部を改正する法律案] 11月12日、立憲民主党が種苗法改正案で修正案 自家増殖の原則自由維持⇒11月17日の審議予定(採決の流れ)
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/478501402.html

[種苗法の一部を改正する法律案] 11月12日、衆院農林水産委員会で種苗法改正案が審議入り⇒11月17日には採決の流れ
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/478460023.html

[種苗法の一部を改正する法律案] 11月12日、衆院農林水産委員会で種苗法改正案が審議入り 午前、質疑 午後、参考人質疑
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/478435006.html

[種苗法の一部を改正する法律案] 6月17日、衆院農林水産委員会で種苗法改正案が継続審議⇒同日、衆院本会議で種苗法改正案が継続審議
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/475666581.html

[種苗法の一部を改正する法律案] 5月22日、衆院農林水産委員会の自民党筆頭理事は種苗法改正案を「審議させて頂きたい」と主張 見送りの報道があるが与党は種苗法改正を諦めてない
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/475246685.html

[種苗法の一部を改正する法律案] 5月20日、与党が今国会での種苗法改正を見送り
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/475195473.html

[種苗法の一部を改正する法律案] 3月3日、果物種苗、流出防止強化へ 種苗法改正案を閣議決定、刑事罰も
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/473862330.html

[種苗法改正案] 新品種流出で刑事罰 通常国会で法改正へ 農水省検討会
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/473068468.html

[緊急拡散] パブリックコメント: 種苗法第2条第7項の規定に基づく重要な形質を定める件の一部を改正する告示案についての意見・情報の募集を農林水産省が募集! 12月11日締切!
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/455086782.html

[緊急拡散] パブリックコメント: 種苗法施行規則の一部を改正する省令案についての意見・情報の募集を農林水産省が募集! 12月11日締切!
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/455085549.html
ラベル:種苗法改正案
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posted by hazuki at 00:38| Comment(0) | 法律・法案 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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