事実上、「日米FTA交渉」は既に始まっている 日米首脳会談で「FTA」に言及がなかった理由
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2017年11月8日(水) 細川 昌彦
トランプ大統領の初来日では、北朝鮮に関心が集中した。だが、実はビジネスの観点では「日米FTAへの言及がなかった」ことこそ、注目すべき点だ。なぜ、言及がなかったのか。それは、事実上、既に交渉が始まっているからだ。
80年代の見出しを見ているような貿易問題
今回の日米首脳会談。対北朝鮮政策で日米が緊密に連携を取るのが最大のテーマだったが、経済問題はどうか。
「貿易赤字の是正求める」「市場開放迫る」とメディアの見出しは1980年代の貿易摩擦を見ているようだ。さらにトランプ大統領はしきりに「互恵的」な貿易を求めていたが、これも80年代の亡霊を見ているようである。2月の首脳会談の時にも指摘したが、その時、共同宣言にない「互恵的」という言葉をトランプ大統領が共同記者会見で発した時には、はっとさせられた。かつて米国はこの言葉を振りかざして、日本は「結果の平等」を求め続けられた苦い歴史が思い出された。
しかし、今は80年代とは状況が大きく違う。かつて米国の対日貿易赤字は全体の赤字の6割近くを占めていたが、今は1割にも満たない。日本企業も対米投資をして米国で86万人の雇用を生んでいる。安倍首相もそのことはトランプ大統領に説明したようだ。
注目はトランプ大統領が日米自由貿易協定(FTA)に言及するかどうかであったが、首脳会談ではなかったようだ。事前にはトランプ氏が強く求めてくるのではないかと日本政府は身構えていたことからほっとしている向きもある。
なぜトランプ氏は日米FTAを言い出さなかったのか
しかし、これは現時点であえて明示的に日米FTA交渉を求める必要がないからだ。日米間では既に、事実上の日米FTA交渉が行われているのも同然なのだ。
今回は米国内の支持層向けには、日本に対して強く対日貿易赤字に対する不満を言って、ツイッターに書ければ十分だった。
米国がイメージしているFTAとは、決して包括的なものではない。「個別案件の寄せ集め」で十分だ。錦の御旗は「対日貿易赤字の是正」である。
自動車業界、畜産業界、農業団体、製薬業界。こうした業界の個別利益を日米経済対話の場で日本側に要求していく。それを「対話」と呼ぶか「交渉」呼ぶかは、もちろん厳密には違う。過去、米国の圧力の下、厳しい通商交渉を強いられた苦い経験や国内への配慮もあって、日本はこれまでも「対話」という呼び方にこだわってきた。ただし、実態的には日米双方のやり取りは、「交渉」とそれほど差があるわけではない。
実態的には、「対話」の結果が「事実上のFTA」になっていくということになる。実利を考えれば、FTA交渉と呼ぶかどうかよりも、「交渉の実態」が大事なのだ。
従って今、トランプ大統領が明示的に「日米FTA」と言い出す実益はない。ペンス副大統領やライトハイザー通商代表部(USTR)代表が既に日米FTAに言及していることで、米国の関心は十分に日本政府に伝わっている。
米国としては、米国の意図が日本政府に伝わってさえいれば、どの段階で「正式のFTA交渉」と言うどうかは、日米双方の事情で決めればよいということだろう。
タイミングを左右するTPP11と政治状況
そのタイミングを判断するうえで大事なのは、米国抜きの環太平洋経済連携協定(TPP11)と米国内の政治状況だ。
TPP11については、トランプ政権のうちは米国がTPPに戻ってくることは期待できないが、少なくとも将来、米国が戻る受け皿は用意しておくべきだろう。そのTPP11は今週開かれるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議の際に、大筋合意を目指して今、胸突き八丁に差し掛かっている。ここで、これを主導する日本自身が日米FTA交渉に入るとなると、TPP11の交渉に水を差し、一挙に求心力を失いかねない。
一方、米国はTPPから撤退しても、日米二国間交渉を確保できるならば、米国としても日本が主導するTPP11の努力を邪魔しないということだろう。それが2月の日米首脳会談時の共同声明の読み方だ。TPP11が胸突き八丁のこの段階で明示的に求めない理由はここにある。
また米国も正式のFTA交渉となると、米国議会の承認が必要となる。現在税制改正で議会との厳しい駆け引きの真っ最中で、通商問題はそれが終わってからだ。そして来年秋には中間選挙を控えている。TPP11が仮に大筋合意になれば、取り残された米国の畜産業界や産業界の不満の声も大きくなり、中間選挙前にはこれを受け止めた動きも必要となろう。
米国の交渉体制から楽観視するのは危険
一部識者の中には、米国は北米自由貿易協定(NAFTA)や米韓FTAの見直しを優先しているので、交渉体制が整っておらず、日本とのFTA交渉の要求をしてくる可能性は低いと見る向きもある。
しかし、これは交渉実態を知らない表面的な見方だ。恐らく日米FTAに慎重な人たちの希望的見立てだろう。
人間は見たいようにしか見ないものだ。
包括的な協定ではなく、個別案件の寄せ集めならば、それほどの労力を要せず、USTRの少人数集団でも対応可能だ。
今回の首脳会談でも、「今後具体的協議は麻生副総理、ペンス副大統領による日米経済対話での協議に委ねる」とされた。従って米側はそこで個別問題を持ち出し続けるだろう。それ自体が実質的には日米FTA交渉だと見ることができる。
日米FTAにどう向き合うべきか
私は決して日米FTAに積極的であるのではない。20年前、経産省で日米交渉に携わっていた頃、日本の財界の一部には日米FTA推進論者もいたが、私も含め日本政府は否定的だった。安全保障を米国に依存している日本が米国と二国間交渉に臨むと、最後は政治決着と称して、ごり押しを許すという苦汁をなめてきた歴史があるからだ。
今日、かつてほどではないにしても、その構図を全く懸念する必要がなくなったわけではないので、できれば避けたいというのが素直な反応だろう。
しかし、仮に米国からこのボールを投げられれば、日本は現実問題として断り切れるだろうか。無論、「対日赤字の是正」という目的自体は決して受け入れられない。また「互恵的」という結果の平等も目的とはしてはならない。これらは哲学、原則に関わるものだからだ。
そのうえで、むしろ同時に考えなければならないのは、中国の台頭だ。これは20年前とは根本的に違う国際環境だ。そこで日本には米国の圧力をどうかわすかという発想だけでなく、戦略性が必要になっている。
米国の戦略性の欠如を日本が補え
今のトランプ政権は残念ながら外交戦略が不在だ。本来、戦略を担うべき国務省の高官が未だに指名されておらず、その結果、単なる交渉屋であるUSTRが対外関係の前面に出てきている。日本はその米国の戦略性の欠如を補う必要があるのだ。
今回、日米両国で合意した「インド太平洋戦略」というコンセプトもその一つだ。中国の台頭をにらんで、米国がアジアに関与する仕掛けが必要なのだ。経済関係でも中国をにらんで、日米で貿易ルール作りの主導権を握る戦略が必要だ。
日米経済対話で日本が貿易ルールを持ち出している理由はそこにある。
日米で質の高い貿易ルールのモデルを合意して、それをアジア太平洋のルールにしていく発想だ。その成果を日米FTAに盛り込めば、日米FTAに戦略性を持たせることができる。
今回トランプ大統領が明示的に言及しなかったことでホッとするのではなく、大局をみなければいけない。単にこのタイミングでは言わなかっただけだと見るべきだ。
正念場は来秋の中間選挙前の来年前半だろう。
その時に注意しなければならないのは、米国からの要求だけを見て、圧力としかとらえない受け身の発想だ。これは残念ながらメディアを含めて長年の日本の習性としてこびりついている。
もちろんトランプ大統領は国内向けに対日貿易赤字の是正を叫び続ける必要があるだろう。ただ、それだけに目を奪われていてはいけない。
今や日米関係において二国間問題は20年前に比べて相対的に明らかに小さくなった。中国の台頭が背景だ。
日米FTAと呼ぼうと呼ぶまいと、中国を念頭に置いた戦略性をいかに持たせることができるかに最大の関心を振り向けるべきだろう。
何故、言及がなかったのか。
それは、事実上、既に交渉が始まっているから。
何故、トランプは日米FTAを言い出さなかったのか。
現時点で敢えて明示的に日米FTA交渉を求める必要がないから。
日米間では既に、事実上の日米FTA交渉が行われているのも同然。
やはり、日米FTAを日米首脳会談で要求する必要がなかっただけなのですね。
事実上、日米FTA交渉は始まっている。
#日米FTAで日本終了
参考(NAFTA)
トランプ政権、カナダとメキシコにNAFTAの再交渉を迫る→ 韓国には米韓FTAの再交渉を迫り事実上合意→ 日米経済対話で日米FTAを要求か?
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/453995622.html
参考(米韓FTA)
[米韓FTA] 再交渉へ トランプ米政権が押し切る 韓国受け入れ
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/453994466.html
参考(日米FTA)
[日米FTA] 安倍首相「2国間の貿易投資の活性化へ対話を深化させることで一致した」
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/454744207.html
トランプ大統領、貿易赤字削減を強調 日米FTA交渉に意欲
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/454730517.html
[日米FTA] 米国、対日圧力アピール FTAで支持回復狙う
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/454729767.html
[日米FTA] 日米FTAに言及、河野太郎外相とライトハイザーUSTR代表が会談
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/454685463.html
[日米FTA] FTAが最大焦点 トランプ氏 強行姿勢 あす日米首脳会談
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/454678412.html
[日米FTA] 日米財界人会議、日本側はFTAの拙速な議論強くけん制 米国の復帰も視野に11か国によるTPPを推進する重要性を訴えた
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/454657213.html
[日米FTA] 日米FTAの進展見込まず 首脳会談で 米食肉団体
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[日米FTA] 日米経済対話、日米FTA盛り込まれず インフラ整備・天然ガス輸出などで協力 牛肉セーフガードは継続協議 米国は日米FTAを要求
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/454247820.html
[日米FTA] 日米経済対話 10月16日に開催へ 貿易と投資のルール、財政、金融などの経済政策面の協力、インフラ投資などの協力の分野で協議を進めることで合意済み
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/453985567.html
[日米FTA] 日米経済対話加速へ作業部会 貿易やインフラなど8分野設置へ
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/453228147.html
[日米FTA] 日本は牛肉で譲歩を TPP復帰「ない」 米通商代表部(USTR)ライトハイザー代表
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/451276648.html
日米FTA要求出ず 世耕経産相、ライトハイザーUSTR代表初会談
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/450100832.html
日本の自動車や農産物などの市場に「重大な障壁が存在する」 米通商代表部(USTR)年次報告書
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/448647650.html
米国、2国間協定(日米FTA)へ圧力強化 トランプ氏、高関税示唆
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/448644709.html
日米FTA交渉拒めず 甘利明氏、TPP合意内で要求
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/448453231.html
農業分野の通商交渉、日本は「第一の標的」 公聴会で米通商代表部(USTR)代表のライトハイザー氏 TPP参加国との2国間交渉(FTA)では「TPPを上回る合意を目指す」
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/447994724.html
日本との通商交渉「優先度が高い」…ウィルバー・ロス米商務長官 日米FTAはNAFTAに次ぐ課題
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/447821774.html
対日FTA(日米FTA)期待強まる TPP上回る自由化も 米農業界
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/447591783.html
安倍首相、日米FTA否定せず 「国益になるならいい」
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/447002412.html
日米首脳会談でFTA交渉入りを 米食肉業界、トランプ大統領に要望
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/446803029.html
日米首脳会談で2国間貿易交渉(日米FTA)に応じる方向 トランプ大統領要求に対応
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/446398480.html
ラベル:日米FTA
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