【TPP日米交渉】
フロマン代表「残った溝埋める自信ある」 TPA法案が下院委可決
http://www.sankei.com/economy/news/150424/ecn1504240057-n1.html
2015.4.24 23:39
【ワシントン=小雲規生】米下院で通商政策を管轄する歳入委員会は23日、TPP交渉の合意に不可欠とされる大統領貿易促進権限(TPA)法案を、25対13の賛成多数で可決した。上院では財政委員会が22日に法案を可決済みだ。TPA法案審議の前進を踏まえ、米通商代表部(USTR)のフロマン代表は23日、ワシントン市内での講演で、農産物や自動車をめぐるTPPの日米協議に関し、「残った溝を埋める自信がある」と述べた。
下院歳入委での審議では、共和党の全23議員と民主党の2議員が賛成した。
TPA法案は政府に通商交渉の権限を一任し、政府が合意内容を議会に諮る際、議会による修正を禁じる内容。TPP交渉では米議会が合意内容を覆すことへの懸念が阻害要因になっており、今後、法案審議は来週以降開かれるとされる上下両院の本会議に舞台を移す。
ただし下院本会議での投票では、自由貿易協定が雇用の海外流出につながるとの見方が強い民主党の大半が反対することは確実。多数派の共和党は賛成に回るが、オバマ政権に交渉権限を一任することに慎重な一部議員は反対するとみられ、「TPA法成立には超党派の支持が必要」(ベイナー下院議長)とされる。
この日の下院歳入委での採決で、民主党からの賛成がわずか2議員に留まったことは不安材料といえ、今後の審議には曲折も予想される。
米下院で通商政策を管轄する歳入委員会は23日、TPP交渉の合意に不可欠とされる大統領貿易促進権限(TPA)法案を、25対13の賛成多数で可決した。
上院では財政委員会が22日に法案を可決済み。
TPAとは、アメリカ議会が法律によって大統領に付与する通商交渉に関する交渉権限。
TPAとTPP:アメリカの通商交渉の制度的政治的背景
http://www.rieti.go.jp/jp/special/special_report/073.html
現在、TPP交渉の一環として日米間の通商交渉が行われている。TPPに関する報道などの中で、最近、TPA(Trade Promotion Authority、貿易促進権限。旧称は「ファストトラック」)という一見まぎらわしい言葉が散見されるようになった。ただ、その重要性に関わらず、TPAについて正面から取り上げた記述は日本国内では少ないように思われる。
そこで、このレポートでは、TPAに焦点を当てながら、歴史的考察も含めて、アメリカ大統領の通商交渉に対する交渉権限について概観するとともに、TPAを巡る動きがTPP交渉に及ぼす影響について考えることにしたい(注1)。
1.TPAとは何か
TPAとは、アメリカ議会が法律によって大統領に付与する通商交渉に関する交渉権限である(注2)。アメリカの憲法では、外国との通商に関する取り決めを定めるのは議会だとされている。また、関税も含めた税金をどうするかを決めるのも議会の役割とされている。このため、大統領は、関税交渉を始めとした通商交渉を行う権限を憲法上有していない(注3)。後述するように、これでは実質的に不都合が生じるため、立法行為によって議会が大統領に対して通商交渉の権限を付与することが過去に何度も行われてきた。このような権限の一形態がTPAである。
TPAが大統領に付与された場合、大統領は他国との通商交渉によって合意したFTAなどの通商協定案(注4)について、通常の法案審議とは異なる手続きを受ける。
第1に、通商協定案は通常の法案審議とは異なる迅速な手続きを受けることになる。大統領が通商協定案を議会に提出すると、議会は一定期間内(過去のTPAでは全体で90日)に審議を終えて採決することが必要になる。また、議会は大統領の提出した案を修正することができず、YesかNoの採決しか行えない。
第2に、通商協定案への議会の関与を確保するための諸規定が設けられている。まず、通商交渉の諸目的がTPAを付与する法律に明記されており、大統領がフリーハンドで交渉できないようになっている。次に、大統領は他国との交渉に入る90日前などに議会へ通報することが必要とされ、また、議会の関係委員会などとの協議を行うことが求められている。
2.TPAを中心としたアメリカ通商政策史
一見わかりにくいTPAのメカニズムは、アメリカの大統領と議会の間の通商政策を巡るやりとりの中で歴史的に形成されてきたものである。以下ではその概要を述べる。
(1) 1934年互恵通商協定法
アメリカでは、通商や税金に関する取り決めを行うのは議会だとされている。たとえば、関税を例にとると、関税率を定めるのは本来は議会の役割である。ところが、これを文字通りに行うと問題が生じる。関税を課される各産業(特に国際競争力のない産業)は自己の産品の関税率を高くすることを望む傾向がある。特に不況の時にはその傾向は顕著になる。その意向を受けた政治家はそれを関税率に反映させようとする。そうすると、国全体では望ましくないにも関わらず、関税率は全般的に高まることになる。また、他国との関係では、ある国が関税率を高くすると他の国もそれに合わせて関税率を上げる傾向がでてきて、輸出が難しくなってしまう。
これが実際に顕著になったのが1929年に大恐慌が発生した直後である。アメリカはスムートホーレー法により多くの品目の関税率を引き上げた。他国も報復措置として関税水準を引き上げたため、アメリカの輸入は減ったものの、それ以上に輸出が減少し、世界の貿易は停滞することになった。
この問題を解決するために、関税率の設定に関する議会の役割を限定して、個々の業界の利害の影響を受けにくい大統領(行政府)が他の国と交渉して、他の国の関税を引き下げさせる代わりにアメリカの関税も横断的に引き下げるという発想が生まれ、実行に移された。1934年互恵通商協定法(The Reciprocal Trade Agreement Acts of 1934)である。1934年互恵通商協定法により、大統領は、相手国と相互に関税を引き下げるのであれば、50%までの引き下げを議会の承認を得なくても行えることとなった。これにより、議会は個々の品目の関税率を巡る産業界からの圧力から解放され(注5)、大統領は、議会による拒絶を心配することなく、相手国と関税交渉を行えることになった。交渉相手国も交渉相手として大統領を信頼することができるようになった。1934年互恵通商協定法は限時法だったが、度々更新されることによって1962年まで継続した。この年に成立した1962年通商拡大法(The Trade Expansion Act of 1962)では議会の役割が拡大したものの、大統領への権限付与という枠組みは維持されて、GATTのケネディラウンドによる大幅な関税引き下げを可能とした(注6)。
(2) ファストトラックの誕生
1960年代になると、関税率が全般的に低下する一方で、反ダンピング措置や政府調達などの非関税障壁への対応がGATTの交渉のテーマとして浮上することになった。議会は、非関税障壁の問題を完全に大統領に委ねることを望まなかったので、1934年互恵通商協定法の枠組みの下では対応しきれず、新たなスキームの誕生を必要とした。そこで1974年に生まれたのが「ファストトラック」と呼ばれるスキームで、これによると、大統領が議会に提出した通商協定案に対して、議会は一定期間内に修正することなくyesまたはnoの議決をすることとなり、これによって、大統領の交渉力が担保される一方で議会の最終的な決定権も確保されることとなった。
ファストトラックのスキームは恒久的なものでなく、期限を区切って議会から大統領に付与されたが、1974年に誕生して以来、1979年、1984年、1988年には大きな問題もなく更新された。これにより、GATTの東京ラウンド、イスラエルとのFTA、カナダとのFTAが実現された。
(3) ファストトラック(TPA)を巡る試練
問題が起きたのは1991年である。1988年通商法において新たに定められたファストトラックは1991年が期限だったが、大統領の延長要求を議会が拒絶しなければ更に2年間延長できることになっていた。この時点では、アメリカ・カナダ・メキシコ間のFTAであるNAFTAの締結をブッシュ(父)政権が目指しており、このファストトラックの延長はNAFTAを認めるかどうかの前哨戦の様相を呈していた。アメリカ国内では、メキシコの安価な労働力によってアメリカの労働者の生活水準が下がると主張する労働組合や、メキシコの緩やかな環境規制によってアメリカの環境に悪影響が生じると主張する環境団体が、NAFTAやファストトラックを問題視し、民主党議員に圧力をかけた。このため、議会内では下院の民主党議員を中心にファストトラック延長への反対が起き、結局は延長されたものの、これまでにない困難を伴うことになった。続いて、1993年にはNAFTAの議会承認を巡ってアメリカ国内の世論が二分し、民主党の大統領だったクリントンは、共和党首脳と協力しながら、民主党議員の多数の反対の中で、何とかNAFTAの議会承認を実現した。
1993年5月に消滅することになっていたファストトラックは、ウルグアイラウンドの実現のために1994年4月まで延長され、ウルグアイラウンドの合意はこの期限に間に合ったためにファストトラックの手続きを受けたが、この時点でファストトラックは消滅した。クリントン政権は議会に対してファストトラックの復活を求めたが、労働や環境などの対立点に対する共和党と民主党の溝は深く、同政権下ではファストトラックは復活しなかった。
2001年に始まるブッシュ(子)政権(共和党)では、FTAの締結が推進され、そのためにTPA(貿易促進権限。この時にファストトラックから名称が変わった)の取得が目指された。これに対しては共和党議員の多くからは支持が得られたものの、下院民主党からの反対に遭い、2002年にTPA法案は可決されたものの、下院での議決は僅差となった(下院の原案は214対213の1票差、上院で修正されたバージョンは215対212の3票差)。
ブッシュ政権では、TPAの下で、チリ・シンガポール・オーストラリア・モロッコ・ドミニカ共和国・中央アメリカ諸国・バーレーン・オマーン・ペルーとのFTAを実現した。TPAは2007年7月1日に期限切れで消滅したが、これより前に署名したFTAは依然としてTPAの適用を受けるというルールになっていたため、これを利用して、オバマ政権になってから、韓国・コロンビア・パナマとのFTAが議会で承認された。
しかし、TPA自体は消滅したままになっている。
3.TPAの役割
TPAとは、簡単にいえば、大統領が外国政府と合意した通商協定案について、議会における審議を簡略化し、一定期間内に修正なくYesかNoの採決をしなければならないというものである。このような仕組みはどのような役割を果たすのだろうか。また、通商協定案を議会で通す上でどうしてもTPAが必要なのだろうか。
TPAの役割として一番強く指摘されるのは、アメリカと交渉する相手国が議会の修正を気にすることなくアメリカ大統領を交渉相手として信頼できることである。言い換えると、TPAがないと、交渉相手国としては、いったん合意したものを議会に覆されたり修正されたりするリスクを甘受する必要が出てくる。このため、TPAの有無はアメリカの通商交渉の終結時期や交渉の成否に影響を及ぼしてきた。
たとえば、米韓FTAの交渉が妥結し両国が署名したのは2007年6月30日だった。ブッシュ政権に付与されたTPAは7月1日に消滅しているので、ギリギリである。GATTのウルグアイラウンドの合意は、1993年12月15日に妥結しているが、これはクリントン政権に付与されたファストトラックによる議会への通知期限となる日だった。これらはもちろん偶然ではなく、アメリカ政府およびその交渉相手は、ファストトラックの有効期間に間に合わせる形で合意に至っている。
逆に、TPAがなかったために、交渉が終結できなかったと思われる例もある。ドーハラウンドの交渉は2008年にクライマックスを迎えた。ここでまとまるのではないかという観測もあったが、実際には決裂した。この決裂には、アメリカが農業や非農産品市場アクセスの交渉で柔軟性を示せなかったことが少なからず寄与しており、柔軟性を示せなかったのは、アメリカの行政府がTPAを持っていなかったことが大きく関係している(注7)。
それでは、TPAなしでFTAを成立させる余地はないのだろうか。アメリカが過去に締結したFTAは全部で15個あり(注8)、これらのうち、2001年に締結されたヨルダンとのFTA以外は全てTPAの下でアメリカ議会において議決されている。ヨルダンとのFTAは、TPAなしで議決されているが、ヨルダンが1990年代の中東和平プロセスを担った重要な国だったこと、ヨルダンの経済規模が小さいためにアメリカへの実質的影響が乏しかったことから、先例として見ることは難しそうである。
TPAなしにアメリカがFTAを締結できるかどうかについて決定的な議論はないが、最近、TPAなしでTPP交渉を合意することについて、議会の共和党が懸念を表明した。2014年7月14日付けで、下院歳入委員会の共和党のメンバーがフローマン通商代表に書簡を送り、TPAが法制化される前にアメリカ政府がTPPに合意した場合(これには大筋合意も含む)には、彼らはTPPを支持しないとしている(注9)。下院歳入委員会は通商協定を所管する委員会であり、また、下院の中でも影響力の強い委員会で、更に、TPPやTPAのサポーターの多くが共和党の議員であることを踏まえると、この書簡の意味は大きそうである。
4.最近の状況と今後の見通し
2007年7月1日にTPAが消滅したが、アメリカ議会では、下院歳入委員会のキャンプ委員長(共和党)と上院財政委員会のボーカス委員長(民主党)によって、2014年1月に新たなTPA法案(the Bipartisan Congressional Trade Priorities Act of 2014)が提案された。オバマ大統領も一般教書演説でTPAの必要性に言及した。
これに対して、下院の民主党議員のリーダーであるペロシ院内総務や、上院の民主党議員のリーダーであるリード院内総務がTPAの復活を支持しないことを明らかにし、中間選挙を2014年11月に控えていることもあって、民主党の支持基盤である労働組合が反対しているTPA復活を民主党のオバマ政権が目指すことが(少なくとも選挙前は)難しくなった。
関係議員の発言などによると、TPA法案が議会で議決されるタイミングは最も早くて、中間選挙後のレームダックセッション(中間選挙で当選した議員が就任する1月以前に開かれる議会の審議で、審議するのは選挙以前のメンバー)だといわれている(注10)。このタイミングを過ぎると、2015年以降に議会の新しいメンバーによってTPA法案を通す必要が出てくる。
多くの情報では、2014年11月のアメリカの中間選挙では、上下両院において共和党が勝利し、下院のみならず、上院でも過半数を占めるのではないかと指摘されている。このことは、来年以降、共和党議員の主導によりTPAが実現する可能性を示すが、共和党も一枚岩ではない。ティーパーティのメンバーを中心として共和党議員の一部は、議会の憲法上の権限を行政府に移譲し過ぎているとしてTPAを大統領に付与することに反対している(注11)。また、オバマ大統領は民主党なので、新たな権限を民主党の大統領に付与することに対しては共和党の議員に抵抗感があるかもしれない(注12)。アメリカでは、個々の法案で党議拘束がかからないので、TPA法案の議決で共和党議員が全員賛成に回るわけではない。また、TPP交渉の行く末もTPAの成否に影響するかもしれない。TPPを含めたアメリカの将来のFTAに反対する利益集団にとっては、FTAによる不利益を未然に防げることになるのでTPAに反対する可能性が高まる。このため、個々の利益集団にとってTPPがメリットになるかどうかが彼ら(およびその支援を受ける議員)のTPAの賛否にも影響するかもしれない(注13)。
TPAの成否に当たって重要と思われるのはオバマ大統領自身のスタンスである。オバマ大統領は、2014年1月の一般教書演説でTPAの取得の必要性に言及したものの、民主党の支持基盤である労働組合がTPAに反対しているなどの事情により、TPA取得に向けてどこまで本気かが必ずしも明確でない。
今回の状況に一番近いと思われるのは、1993年のNAFTAの議会審議の時である。この時は、ゲッパート院内総務も含めて、下院の民主党の議員の多くがNAFTA反対に回った。クリントン大統領は民主党だったが、共和党と手を組みながら、民主党の議員の一部を切り崩して、NAFTA可決に持っていった(この時の下院の採決は、共和党議員は132名が賛成、43名が反対、民主党議員は102名が賛成、156名が反対)(注14)。
このように、オバマ大統領も、共和党と協力しながら、TPA法案への賛否を決めかねている一部の民主党の議員を説得することによってTPA実現に動く必要が出てくるかもしれない。仮にそれができないと、TPA法案の可決は2016年の大統領選挙以降になり、TPPの実現はそれよりも更に後ろ倒しになるかもしれない(もちろん実現しない可能性もある)。
5.終わりに
2010年10月の菅直人首相の施政方針演説で取り上げられる前には日本人のほとんどが知らなかったTPPという言葉は、今では知らない人の方が少ないと思われるくらい広く日本国内で知られるようになった。
これに対して、このレポートで取り上げたTPAを始めとして、アメリカの通商交渉を巡る歴史や国内制度、政治的状況といったTPPの背景的情報については、TPP交渉そのものと違って公開情報を通じて主要な知見が得られるにも関わらず、日本国内ではあまり知られていないように思われる。
TPPも含めて、現実の交渉は交渉者が自由に行えるものではなく、制度的政治的な制約の下で行われるものであり、このことは日本だけでなくアメリカでも当てはまる。TPP交渉の将来を予想するに当たっては、交渉だけを追いかけるのではなく、それぞれの国が抱える制度的政治的な制約がどのようなものであるかも丹念に追いかけていくことが望まれる。
参考
米、貿易法案を超党派で提出 難航するTPP合意へ一歩
http://hazukinoblog.seesaa.net/article/417446969.html
ラベル:TPA法案
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